古今伝授とは、
古今和歌集の講釈と秘説をつたえること。広い意味の歌道伝授。
”わが君は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで”
この歌、ちょっとだけ違いますが君が代ですね。実はこの歌は古今和歌集の賀歌(長寿を祝う歌)の一首です。ほかにも、百人一首の歌の約四分の一は古今和歌集の歌です。知らないようでけっこう知っているのが古今和歌集の歌ということになりますね。
古今和歌集というのは、延喜5年(905)に紀貫之ら4人の選者が天皇の命令で編纂した最初の勅撰和歌集です。古くから代々の歌人に尊重され、和歌のお手本とされてきました。
この古今和歌集の解釈を中心に歌学や関連分野の諸学説を、講義や注釈書、切紙と言われる秘伝を記した紙などによって師から弟子へと他人には漏らさないことを誓って授受したのが「古今伝授」です。平安時代後期に始まったとされますが、文明3年(1471年)篠脇城主・東常縁が宗祇に伝えたのがその確立とされています。
古今伝授を確立した東常縁をはじめ、代々和歌の家柄でもあった東氏が、320年間にわたってこの地を拠点に郡上を治めていたからです。
東氏館跡庭園や篠脇城など所縁の遺跡が今も数多く残っています。
古今伝授を受け継いだ東氏は、元は現在の千葉県にいましたが、承久の乱(1221年)の戦功で郡上に領地をもらってやってきました。以後、郡上大和の剣に阿千葉城を、続いて牧に篠脇城を築いて、11代320年間にわたって郡上の大部分を治めました。
郡上初代の東胤行は鎌倉幕府の有力な御家人でしたが、藤原定家の子である為家から歌道を学び、その娘を妻にしたと伝えられます。以後、東氏は代々にわたって和歌の家柄として名をなし、合わせて72首もの歌が勅撰和歌集に入選しています。これはとてもすごいことです。
篠脇城のあった牧地区には、近年になって見つかり国の名勝に指定された東氏館跡庭園や東氏の氏神を祀る明建神社をはじめ東西2kmにわたってさまざまな遺跡が残っています。このエリアを古今伝授の里フィールドミュージアムとして整備し、その紹介施設として東氏記念館や和歌文学館、研修施設「篠脇山荘」などが建設され、周辺では年間を通してさまざまな文化的催しが開かれています。
古今伝授の形式を確立して古今伝授の祖と呼ばれる。
また、歌10首を贈って奪われた所領を返してもらった和歌の達人。
常縁は、室町幕府の奉公衆という官職にあり、いうなれば足利将軍の直属部隊です。江戸時代の旗本に相当します。ですから京都にもお屋敷を持って勤めていました。その傍ら、父親の影響もあって冷泉流や二条流の最高峰の歌人から教えを受け、歌道を究めました。
やがて同族の千葉氏の内乱を治めるために幕命で関東に赴任して、13年ほどを費やしています。その間に、都では応仁の乱がはじまり全国を戦乱に巻き込んでいきます。東軍に属する東氏の篠脇城は、西軍の有力武将であった土岐氏守護代・斉藤妙椿の急襲を受け落とされてしまいました。落城の知らせを受けた常縁はその悲しみを和歌に詠むと、それを伝え聞いた妙椿は、もっと歌を詠んでくれたなら城を返してもいいと申し出ます。そうして常縁は10首の歌を妙椿に贈り、めでたく無血の内に城と所領が返ってきたのでした。
その後、連歌の大成を志す宗祇が、荒れ果てた都をあきらめ、常縁を頼って和歌の教えを受けに来たのでした。二度にわたる古今和歌集の講義のほか、何度かの遣り取りを繰り返し、古今伝授が完結しました。
東常縁 とうのつねより
室町時代中期から戦国時代初期の武将、歌人。美濃篠脇城主。官職が下野守だったため一般には東野州(とうやしゅう)と称される。
応仁の乱の際、土岐氏守護代、斉藤妙椿に篠脇城を奪われるが、和歌10首を送って返還を受けたという。歌集に『常縁集』、歌学書に『東野州聞書』がある。
中世文芸の華とされる連歌を大成。
西行・芭蕉と並び「旅の三大詩人」と称される人。
和歌文学の主流を大づかみすると、和歌→連歌→俳諧 となります。連歌も俳諧も元は和歌の流れです。和歌の上句(5・7・5)と下句(7・7)を交互に付け合い、およそ100句で一つの作品とする連歌は、今はほとんどされていませんのでピンとこないかも知れませんが、〝中世文芸の華〟と言われる主要な文学でした。この連歌を大成したのが宗祇です。連歌の宗匠として全国の大名家を渡り歩いて遇されており、その一生は旅の連続でもありました。俳聖・芭蕉も宗祇をたいへん尊敬し、その足跡を追って旅しています。
宗祇は連歌大成には古典の修得が必須と考え、藤原定家以来の血を引くと考えられる東常縁に狙いを付けて教えを乞いに来ました。郡上には、宗祇水をはじめ、宗祇屋敷、宗祇柿、宗祇桜など宗祇の名を冠したものがあったり、明建神社と那比新宮に常縁と宗祇の連歌碑が建立されていたり、その足跡が偲ばれます。
古今伝授の里フィールドミュージアム
古今伝授が行われた地にこのフィールドミュージアムが整備されました。国名勝東氏館跡庭園、簡単な和歌文学史を綴った展示館「和歌文学館」、東氏記念館、日本で唯一の短歌図書館などがあります。和歌文学館には、三十六歌仙にちなんだ長さ36mの古今和歌集絵巻があり、古今和歌集の代表歌を絵巻で紹介しています。これを一通りたどれば、貴方も最も簡単な古今伝授を受けたことになるのです!
明建神社の連歌碑
常縁と宗祇が、東氏の氏神明建神社(現・明建神社)に参拝したとき、社前で次の連歌を詠みました。
花ざかりところも神のみ山かな(常縁)
さくらに匂ふみねの榊葉(宗祗)
遠い昔に2人がここで歌を詠んでいたと思うと不思議な気持ちになりますね。
住所:岐阜県郡上市大和町牧